弥富の朝、畑に残された“深い掘り返し跡”が不安を呼んだ
佐倉市弥富。
田畑が広がるこの地域では、近年イノシシによる獣害が増えている。
ある朝、畑に向かった高齢農家の夫婦・斎藤さん(78・75)は深く掘り返された畑を見て立ち尽くした。
「作物がやられるのも辛いけど、“ここにイノシシが来た”って思うと生活そのものが怖くなるんです」
そんな不安を抱える農家の人たちを支えているのが地域の猟友会だ。
猟友会の活動は“趣味”ではなく“地域の暮らしを守る仕事”
弥富の猟友会に所属するのは、農家、元会社員、職人など、さまざまな人たち。
その中の一人、猟歴20年の大野さん(62)はこう話す。
「猪は夜に動くし、罠を仕掛けるのも危険が伴う。でも、誰かがやらなきゃ、この地域の暮らしが守れないんです」
猟友会の活動は、“趣味の延長”と思われがちだが実際は命懸けの現場だ。
「猪は突進してくることもある。県内では今年、2人の猟師が大怪我をしていますから、常に緊張感があります」
その言葉には、地域を守る覚悟がにじんでいた。
高齢農家の不安を受けて、猟友会が動いた日
ある日、斎藤さん夫婦から「畑に猪が出た」と連絡が入った。
大野さんたちはすぐに現場へ向かい、足跡や掘り返しの深さを確認した。
「これは大きい個体だな」
「ここから山に戻ったかもしれない」
その場で罠の位置を決め、翌朝には設置を完了させた。
「私たちだけじゃ、どうにもできないから…本当にありがたいです」
斎藤さんの声は震えていた。
猟友会の“命懸けの瞬間”を、息子さんは初めて知った
この日、斎藤さん夫婦の息子・和也さん(45)も実家に駆けつけていた。
「正直、猟友会のことを“田舎の昔ながらの活動”くらいに思っていたんです」
しかし、罠の説明を受け、猪の行動パターンを聞き、危険性を目の当たりにしたとき、その認識は一変した。
「これは…命懸けの仕事なんだ」
和也さんは、猟友会の背中を見ながらそう感じたという。
捕獲の翌朝、農家の夫婦が見せた“安堵の表情”
翌朝、罠にかかった猪を確認した大野さんは、すぐに斎藤さん夫婦に連絡した。
「これでしばらくは大丈夫ですよ」
その言葉を聞いた瞬間、斎藤さん夫婦の表情がふっと緩んだ。
「本当に助かりました…これで畑に出るのが怖くなくなります」
その姿を見て、和也さんの胸に静かな感情が湧き上がった。
「地域を守るって、こういうことなんだなって思いました」
“代々の農村を守りたい”という思いが、世代を超えてつながる
斎藤さん夫婦は、代々この土地で農業を続けてきた。
「畑はね、ただの土地じゃないんです。家族の歴史そのものなんですよ」
その言葉に、和也さんは深くうなずいた。
「僕も、この土地を守りたいと思うようになりました。猟友会の人たちの姿を見て、その気持ちが強くなったんです」
地域の暮らしを守るために命懸けで動く人たちがいる。
その姿は、農家の夫婦だけでなく、次の世代の心にも確かに届いていた。
地域の“静かな守り手”がいるから、暮らしは続いていく
猟友会の活動は、派手ではない。
注目されることも少ない。
でも、地域の暮らしを守るために命懸けで動く人たちがいる。
その存在があるからこそ、弥富の畑は今日も耕され、農家の生活は続いていく。
地域の未来は、こうした“静かな守り手”によってそっと支えられている。


